出典:日本の歴史①日本史誕生・佐々木高明著・集英社刊
    日本史誕生:51~54頁
    第1章 日本列島の旧石器時代
    4 細石刃文化の展開
 《細石刃文化とは》
 ナイフ形石器によって特色づけられた旧石器時代のⅡ期は、前にも述べたように、
 一万三〇〇〇年前ごろに終わる。
 それ以後は、ナイフ形石器群にかわって、
 細石刃石器群が日本列島にひろく分布するようになる。
 細石刃は大へん小さな石刃で、それ一つでは道具としては役立たない。
 骨や角や木の軸に細い溝を彫り、
 そこに数本の細石刃を埋め込んで樹脂やアスファルトなどで固定させ、
 槍や銛、ナイフとして使うのである(次べージのコラム参照)。
 このような利器を植刃器というが、ちょうどカミソリの刃を埋め込んだのと同じで、
 溝からほんの少し顔を出した細石刃の鋭い刃先が、
 獲物の固い皮を切り裂き、体内に深く突き刺さるようにできている。
 写真23 は、シべリアのココレヴォⅠ遣跡の出土品で、大型の野牛の肩甲骨に、
 細石刃を植え込んだシカの角製の植刃器(槍)の先端が突き刺さったまま発見された。
 突き刺さった槍先の角度から、
 槍は一・五~一・六メートルの高さからほぼ水平に打ち込まれたとみられている。
 狩人は至近距離から植刃器を投げ槍として使ったらしい。
 狩人たちは、狩りの終わったあと、落ちこぼれた細石刃を新しいもので補充し、
 また次の狩猟に使ったことだろう。
 この例でもわかるように、鋭い細石刃をいくつも植え込んだ槍は大へん高い殺傷力をもち、
 しかも、細石刃を植えかえることによって、槍はくり返し使用することができた。
 このように、細石刃は組み合わせて使うと
 きわめて高い機能を発揮する道具の部品としてつくり出されたものといえる。
 部品だから同一規格の鋭い細石刃が大量に必要だ。
 それを得るための技術が細石刃技法と称されるもので、
 母岩を適当な形にととのえて必要な石核をつくり出し、
 そこから細石刃を連続的にはぎとるのである(コラム参照)。
 幅数ミリに満たない小さくて鋭い細石刃を連続してつくり出し、
 それを組み合わせて使用する技術というのは、長い旧石器時代の最後の段階になって、
 人類が生み出した最高の石器の製作・使用技術だということができる。
 この種の細石刃技術をもつ石器群は、
 旧石器時代の終末期になって旧大陸の各地域にあらわれ、
 やがてその全域にひろがった。
 しかも注目すべきことは、この細石刃文化の中から、
 人類の革新的な文化が生第み出されてきたことである。
 たとえば中近東地域における農耕・牧畜文化は
 ナトゥフ文化で代表されるような細石刃(器)文化の中から生まれたし、
 華北の農耕文化も細石刃文化をベースにして誕生したといえる。
 農耕・牧畜の発生しなかった北ユーラシアにおいても、
 後に説明するように、土器がこの文化の中から発生してきているのである。
 このように細石刃文化は新しいタイプの文化を生み出す
 大きな潜在力を有していたようである。
 このような事実をふまえ、東アジアの旧石器文化にくわしい
 加藤晋平氏は
 「日本独特の縄文土器文化の発生は、やはり、この細石刃文化のなかにある。
  私たちが現在有している日本の基層文化は、
  今から一万四○○○年前ち一万三○○○年前に
  日本列島をおおった細石刃文化のなかに求めることができる」
  (加藤晋平、一九八六年)と述べている。
 日本文化の形成の問題を考えるうえで、
 この加藤氏の指摘はなかなか意味深いものだということができる。
 では、日本列島では、この種の細石刃(器)文化は、
 具体的にどのような特色をもって存在し、
 その文化はどこから伝来したと考えられるのだろうか。
 「コラム」細石刃のつくり方
  1 ブランク(母型)
    原石を割って、木ノ葉形の石器(ブランク、母型)を用意する。
  2 スボール
    ブランクの剥離をくり返すいポールをとる)。
  3 クサビ型細石核:細石刃
    半月状の石核(細石核)を押圧剥離
    (先の尖った鹿角などを強く押しつけて石片をはぐ方法)で、
    連続的に細石刃をつくる。
    石核の断面がクサビ形細石核とよばれる。(木村英明 1985による)
 「図」細石刃のつくり方
  ① 原石から母型(ブランク)をはがす。
  ② ブランクをたたいて形をととのえる。
  ③ スポールをはぎとり、細石核をつくる。
  ④ 細石核から細石刃を押圧剥離ではがす。
  ⑤ ブき上がった長さ20 ミリほどの細石刃。
   岩本圭輔氏作製
 「図」装着された紐石刃
  細石刃を骨や木に刻まれた溝にはめ込んで、おもに投げ槍として使用した。
  デンマーク出土。鈴木忠司氏提供。
 「写真23」野牛の肩甲骨に突きささった槍先
  槍先(植刃尖頭器)は、長さ約11cm で、片側に幅1 -2 mm の溝が刻まれ、
  細石刃が植え込まれていた。
 ソ連・ココレヴォⅠ遺跡(1.4-1.3 万年前ごろ)出土。木村英明氏提供。
 《参考》
 【世界史年表1】宇宙誕生から紀元前まで
 『参考ブログ』
 「歴史徒然」
 「ウワイト(倭人)ウバイド」
 「ネット歴史塾」
 「古代史の画像」
 「ヨハネの黙示録とノストラダムスの大予言」
 「オリエント歴史回廊(遷都)」
 「歴史学講座『創世』うらわ塾」
 「終日歴史徒然雑記」
 「古代史キーワード検索」
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