出典:日本の歴史①日本史誕生・佐々木高明著・集英社刊
日本史誕生:18~20頁
はじめに
『日本史誕生』を考える―現在と過去、アジアと日本―
《基層文化の探求》
つまり、現在、
われわれが「日本的」と考えている文化の特色のなかでかなり多くのものが、
近世あるいは中世に起源するものであることは間違いない。
しかし、その「日本的」と考えられている文化的特色の基礎には、
有史以前に遡る古い時代から脈々と伝えられてきた、
素朴で基木的な文化の伝統が存するわけである。
私は伝統的な日本文化の基礎を構成するこのような文化のことを、
《基層文化》とよぶことにしたい。
さきほどの例についていえば、
神社を中心とする「日本的」な祭りや行事の背後に息づいてきた
固有のカミ信仰はその一つであり、
歌舞伎や能を生み出すもとになった古代以来の民俗芸能の伝統も
基層文化の一部と考えられる。
また日本の民家の高床やハンギング・ウォールの構造、
あるいは稲作とその食事文化の伝統(ナレズシもその一部ということができる)、
さらには現代の日本語のもとになった上代日本語やその基礎になった
倭人の言語や縄文語なども、
日本の基層文化のきわめて重要な部分を構成するものということができる。
この本の中で、私がこれからとりあげようとするのは、
このような日本の基層文化とそれを構成するさまざまの要素が、
いつ、どのようにして形成されたかという問題であり、
その基層文化の形成過程についてのくわしい分析である。
その中で「日本史誕生」の具体的なプロセスが描き出せるものと私は考えている。
ところで、わが国における最近の考古学や人類学の調査・研究の発展は、
大へん著しく、次々に新しい資料が発見され、新しい学説の提示が行われている。
吉野ケ里遺跡や藤ノ木古墳などのようにジャーナリズムにもてはやされたもののほかにも、
学術的に貴重な発見やすばらしい研究がたくさんある。
その中にはコンピューターや電子顕微鏡など最新の機器類を
用いた自然科学的な分析により、
新しい事実が発見された例も少なくない。
本書では、このような最新の研究の成果をできるだけとりいれ、
新しい研究の動向を紹介しながら、日本における基層文化の形成のプロセスを、
具体的に追求してゆくことにしたい。
この場合、前にも述べたように、
歴史の復元を行う際の私の視点は、
常に民族学者のそれである。
日本列島で展開された基層文化の形成のドラマを、
私は常にアジア的世界の中で位置づけ、
アジア的世界の民族文化形成史の中で、その特色を考えたいと思っている。
そうすることによって国際的・アジア的視野からみた
ユニークな「日本史誕生」のドラマが描けるものと信じているのである。
以上で、私が描こうとする「日本史誕生」の大きな枠組みについてお話しすることができた。
これからいよいよ本文で、そのドラマを展開させるわけだが、
ここで本巻でとり扱う時代の範囲をいちおう示しておくことにしよう。
本巻では日本列島で発見されている最古の旧石器文化から筆を起こし、
縄文時代をへて弥生時代のはじめごろ、稲作文化が日本列島に伝来し、
それが展開したところで筆をおくことになっている。
国家の編成原理が日本列島にもちこまれ、
新しい社会と文化が形成されはじめたところで、
第二巻にバトン・タッチしたいと田心っている。
当然、第一巻と第二巻の間には一部重なり合うところがでてくると思うが、
そうした二つの巻の間での重複を少しずっ重ね合わせながら、
この『集英社版日本の歴史』
全二十一巻のストーリーが展開してゆくものと思われるのである。
「写真」鹿角製のクマ
北海道有珠10号遺跡出土
札幌医科大学解剖学第2講座
「写真」ヤコウガイのスプーン
沖縄県清水貝塚出土
具志用村教育委員会
日本列島の北と南には基層文化の特色がよく残っている。
それゆえ、われわれは北と南の文化に深い思いを寄せるのである。
写真は鹿角の先端に彫り出されたみごとな熊の像と
幻想的な光を放つ夜光貝でつくられた美しいスプーン。
それぞれ北の狩猟文化、南の漁撈文化を象徴するすばらしい作品である。
『参考ブログ』
「歴史徒然」
「ウワイト(倭人)ウバイド」
「ネット歴史塾」
「古代史の画像」
「ヨハネの黙示録とノストラダムスの大予言」
「オリエント歴史回廊(遷都)」
「歴史学講座『創世』うらわ塾」
「終日歴史徒然雑記」
「古代史キーワード検索」
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