2011年9月17日土曜日

氷河時代の動物と狩人たち

 出典:日本の歴史①日本史誕生・佐々木高明著・集英社
    日本史誕生:37~38頁
    第1章 日本列島の旧石器時代
    2 氷河時代の世界と日本

 《氷河時代の動物と狩人たち

 では、このような氷河時代の日本列島には、どのような動物が生息し、

 古代の狩人たちは、どのような動物を狩猟して生活していたのだろうか。

 第四紀の哺乳動物のくわしい研究を行っている

 京都大学名誉教授の亀井節夫氏によると、

 ヴユルム氷期には海面低下によって生じた陸橋を通って

 大陸から大量の動物群が移住してきたという。

 その一つはユーラシア北部の亜寒帯に分布する「マンモス動物群」で、

 マンモスゾウはシべリアからサハリンをへて北海道にまで南下し、

 ヘラジカ、ヒグマ、野牛(バイソン)などは本州にまで南下していた。

 他方、中国大陸北部に分布する草原性の「黄土動物群」も

 おそらく朝鮮半島を経由して西日本へ移住してきたという。

 それらはナウマンゾウ、オオツノジカ、原牛、ニホンムカシジカ、ニホンジカなどで

 特徴づけられる動物群である。

 おそらくこれらの動物群に伴ってヒトの移住もみられたと思われるが、

 いまのところ確たる証拠はない。

 このようにヴユルム氷期には北、南両系統の動物群が日本列島へ移住してきたとみられるが、

 これらの哺乳動物の化石が、

 石器や骨角器などとともに大量に出土した珍しい遺跡が二カ所知られている。

 岩手県南部の花泉遺跡と長野県北部の野尻湖立ケ鼻遺跡である。

 花泉遺跡では丘陵の砂質粘土層の中に五枚の泥炭層があり、

 その中から大量の獣骨化石が発見された。

 ハナイズミモリウシ(野牛)、原牛、オオツノジカ、へラジカ、ナツメジカ、

 トクナガゾウ(ナウマンゾウ)、ノウサギの一種などである。

 オオツノジカや原牛などは黄土動物群に属し、

 へラジカや野牛などはマンモス動物群に属すことは前にも述べたが、

 花泉遺跡では中国北部から北上してきた動物群とシベリアから

 南下したものが共存していたことがわかる。

 また、花粉分析や植物遺体の研究から、約二万年前の花泉遺跡付近は、

 沼沢地の周辺にイラモミ、アカエゾマツ、トウヒ、チョウセンゴヨウなどを

 主とする亜寒帯針葉樹林がひろがり、年平均気温はいまより六~七度は低く、

 現在のサハリン南部と同じ気候だったとされている。

 この花泉遺跡でとくに注目すべきことは、シカの角や野牛の肋骨を割って研磨して、

 先を尖らした骨角器がいくつか出土したことである。

 また、敲石と思われる使用痕のある石器も発見されている。

 さらに発見された獣骨類は莫大な量であるのに対し、

 その種類は前にも述べた、わずか数種類にすぎない。

 なかでも野牛の骨がもっとも多く、原牛とオオツノジカがそれに次いでいる。

 しかも、これらの獣骨類はひろい範囲に散布していたのではなく、

 せいぜい一〇メートルほどの範囲からまとまって出土したという。

 このような事実から、花泉遺跡は、当時の狩人たちが、

 野牛をはじめ原牛やオオツノジカなどを狩猟し、その動物を解体した場所、

 つまりキル・サイトではないかといわれている。

 野牛の肋骨製の尖頭器(ポイント)も、

 おそらく解体の際の道具として用いたものであろう。

 同種のキル・サイトの遺跡はヨーロッパ、シべリア、中国北部などの各地
 
 いくつも発見されており、

 最終氷期にはマンモスやバイソンなど

 大型のムレ動物を狩猟する文化(ビッグゲーム・ハンターの文化)が、

 ユーラシア大陸の中北部で栄えていたことが知られている。

 花泉遺跡もその一つとして位置づけることができるようである。

 他方、野尻湖畔の立ケ鼻遺跡では、

 出土した獣骨の過半はナウマンゾウ(その大半が成獣)のものであり、

 オオツノジカがこれに次ぎ、他はきわめて少ない。

 したがって、そこはナウマンゾウのキル・サイトではないかと考えられている。

 その時代は野尻湖の湖底場胤物の分析などによって、

 ほぼ四万年前から二万四〇〇〇年前ごろと考えられている。

 花泉遺跡が約二万年前(ヴユルム氷期の最盛期)とされているのに対し、

 野尻湖遺跡はそれより少し前の亜間氷期と亜氷期の時期に当たるようである。


 ということは、後期旧石器時代の初期から中期にかけて、

 ナウマンゾウやオオツノジカをおもな獲物とする

 大型動物狩猟民の文化が野尻湖畔でも栄えていたことがわかるのである。

 「写真9」花泉遺跡出土の骨角器

  野牛の肋骨を斜めに折り、先端部分を磨いて尖らせている。

  獣の解体などに用いたらしし、(長さ178cln ) 。

  国立科学博物館

 「図3」日本列島にきた二つの動物群

  ヴュルム氷期には北からマンモス(亜寒帯)動物群が、

  南から黄土動物群がやって来た。

  影絵はへラジカ(北)とオオツノジカ(南)。

 「写真10」ハナイズミモリウシの復元骨格

  花泉遺跡でもっとも出土量の多かったのがハナイズミモリウシ。

  そこはキル・サィトかと考えられている。

  体長2.95m 、体高1.73m 。

  長谷川善和氏復元

  岩手県立博物館

 《参考》
 【世界史年表1】宇宙誕生から紀元前まで

 『参考ブログ』

 「歴史徒然」
 「ウワイト(倭人)ウバイド」
 「ネット歴史塾」
 「古代史の画像」
 「ヨハネの黙示録とノストラダムスの大予言」
 「オリエント歴史回廊(遷都)」
 「歴史学講座『創世』うらわ塾」
 「終日歴史徒然雑記」
 「古代史キーワード検索」

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